今週末、僕は鹿児島の指宿(いぶすき)を走ることになっている。「いぶすき菜の花マラソン」という、名前だけ聞けば実になだらかで、春の訪れを予感させる優雅なレースだ。しかし、フルマラソンというものは、どんなに美しい名前がついていようと、実際には四十二・一九五キロメートルの孤独な作業に変わりはない。
正直に白状してしまえば、今の僕のコンディションは、お世辞にも「走る準備が整っている」とは言い難い。このところ練習量は目に見えて減っていたし、追い打ちをかけるように年末年始という誘惑が僕の前に立ちふさがった。
机の上にはうまい酒(主にワイン。今年の目標の一つは平日の禁酒であるほど毎晩飲んでしまったのだ)と料理が並び、僕はそれらを絶ってまでランニングに打ち込むほどストイックな人間ではなかった。その結果、僕の身体には「最適体重からプラス10キロ」という、ずっしりとした、物理的な重みを持つ現実が居座ることになった。
10キロ。それはスーパーで売っている米の大きな袋ひとつ分と同じ重さだ。最近はめっきり高い。5キロだってそれなりの存在感だ。それだけの重量を余分に背負ってフルマラソンを走るというのは、控えめに言っても正気の沙汰ではない。今回ばかりは、自己ベストの更新だとか、そういった華々しい数字はどこかの引き出しにそっと仕舞い込んでおくことにした。
足元を支えてくれるのは、アディゼロの「evo SL」だ。この久しぶりのブログポストの直前は約11か月前だが、そこで紹介した一足。そして2025年、僕がもっとも信頼を寄せてきた一足である。その前はアシックスとホカが主力だったが、完全にアディダスに移行。とはいえ、この一年、僕は一度もフルマラソンのスタートラインに立っていない。練習用としては申し分ない相棒だが、彼(あるいは彼女)に42キロの過酷な旅を強いるのは、実を言えば今回が初めてということになる。いったいどんなレースになるのか、僕にはまだ見当もつかない。スタート時の寒さで後悔するかもしれないし、あるいは菜の花の香りに包まれて、ふと何かに救われるような気持ちになるかもしれない。
今回の僕の目標は、至極シンプルなものだ。「大きな故障なく、五体満足でゴールに辿り着くこと」記録を狙うのをやめたとき、走りという行為は、ただの「移動の持続」へと還元される。それはそれで、悪くない経験かもしれない。やれやれ。まずは無事に、指宿の地を踏むことにしよう。